ブリュッセル観光で一番驚いたことは、アール・ヌーヴォー様式の魅力的な建物群でした。
世界遺産巡りの一環としてヴィクトール・オルタ(Victor Horta)が手掛けた建物を訪問しましたが、それ以上に刺激的な建物がブリュッセルには多く存在していました。
お世辞にも観光スポットが多くないブリュッセルにおいて、アール・ヌーヴォー建築巡りはもっともおすすめしたい観光の楽しみ方になります。建築物に興味のない人もきっと満足できる、そのような形で魅力をお伝えしたいと思います。
今回はアール・ヌーヴォー建築の父「ヴィクトール・オルタ」のほか、「ポール・アンカール」、オルタの弟子「ギュスターヴ・ストローヴァン」など著名建築家を中心に、15名の建築家作品を紹介していきます。
アール・ヌーヴォー建築を手掛けた著名建築家15名
1.ヴィクトール・オルタ(Victor Horta)
ヴィクトール・オルタ(Victor Horta、1861〜1947年)はアール・ヌーヴォー建築の父と呼ばれる人物で、フリーメイソンとしても知られています。
■世界遺産
ブリュッセルで手掛けた4件が「建築家ヴィクトール・オルタの主な都市邸宅群(Major Town Houses of the Architect Victor Horta)」として2000年に世界遺産登録されています。なかでも、写真のタッセル邸(Hôtel Tassel)はアール・ヌーヴォー建築最初の建物と言われています。
■世界遺産以外
ヴィクトール・オルタは世界遺産以外にも多くの建物を設計しています。その代表格が多くの観光客が訪れる「ベルギー漫画センター」になります。著名建築家が手掛けたということを知れば、利用する際に少しだけテンションが上がりますよね。その他オルタが手掛けた建物については、以下の「詳細はこちら」を確認してください。
2.ポール・アンカール(Paul Hankar)
ポール・アンカール(Paul Hankar、1859〜1901年)はヴィクトール・オルタの友人で、アール・ヌーヴォー建築の重要人物。家具なども手掛け、フランス・パリのオルセー美術館にはアンカール製作のダイニングテーブルが展示されています。
アンカールの手掛けた最も有名な建築物は写真の「アンカール邸」になります。こちらは1893年に建設され、タッセル邸とともにアール・ヌーヴォー建築最初の建物と言われています。そのほか、アルゼンチン大使館として利用されている「アルベール・チャンベルラーニ邸」は建物上部のズグラッフィートが見どころになります。
3.ギュスターヴ・ストローヴァン(Gustave Strauven)
ギュスターヴ・ストローヴァン(Gustave Strauven、1878〜1919年)はオルタの弟子で、アール・ヌーヴォー建築の異端児的存在。奇抜かつ繊細なデザインに特徴があり、代表作「サン・シール邸(Maison de Saint Cyr)」ではそれらの特徴を随所に見ることができます。写真はド・ベック邸という建物になります。その他建築家とは一線を画する唯一無二の建物たちは一見の価値ありです!
4.ポール・コーシー(Paul Cauchie)
ポール・コーシー(Paul Cauchie、1875〜1952年)はベルギー人建築家で、ズグラッフィート装飾の重要人物。代表作「コーシー邸(写真)」では宣伝効果を狙った見事な装飾を見ることができます。なお、コーシーはわずか4つの物件しか設計をしていないとされ、詳細ページではブリュッセルにある3つの物件を写真付きで紹介しています。
5.ポール・サントノイ(Paul Saintenoy)
ポール・サントノイ(Paul Saintenoy、1862〜1952年)はブリュッセル・イクセル生まれの建築家。アントワープ王立芸術アカデミーで建築を学び、アール・ヌーヴォー様式が取り入れられた写真の楽器博物館(旧オールドイングランド百貨店)に加え、ブリュッセル北駅の時計等も手掛けています。
6.エルネスト・ブルロ(Ernest Blerot)
エルネスト・ブルロ(Ernest Blerot、1870〜1957年)はブリュッセル・イクセル生まれの建築家。1900年前後に活躍した著名建築家の一人です。古典的なデザインを残しつつ、アール・ヌーヴォー様式を取り入れている技法が特徴的で、それらの特徴は写真の「Avenue des Klauwaerts 15/16」などの建物で見ることができます。また、以下の写真「Rue Vanderschrick 3-25」は1列全てブルロ設計によるアール・ヌーヴォー建築になります。
■Rue Vanderschrick 3-25
7.アンリ・ジャコブ(Henri Jacobs)
アンリ・ジャコブ(Henri Jacobs、1864〜1935年)はブリュッセル生まれの建築家。一般住宅も手掛けていますが、多くの学校建築を手掛けたことで評価されています。写真は1899〜1900年に建設された「アンリ・ジャコブ邸」。1階部分や建物上部のズグラッフィート装飾が見所。両隣の建物もジャコブ設計の建物になります。
なお、以下の写真「Avenue de Roodebeek 59-61」はジャコブ設計の学校になります。彼の手掛けた学校はどれもこのようなデザインになるため、一つ覚えておくと街歩きの際に役立つと思います。
■Avenue de Roodebeek 59-61
8.ポール・アメッス(Paul Hamesse)
ポール・アメッス(Paul Hamesse、1877〜1956年)はブリュッセル・イクセル生まれの建築家。アール・ヌーヴォー建築以外にも、様々な様式で多くの建築物を手掛けています。
代表作は1904年に手掛けた「コーン・ドネー邸(Hôtel Cohn-Donnay)※写真」。建物の前には説明書きがあるくらい有名な建物です。なお、アメッス設計の建物は本当に多いので、グーグルマップなどで行きたい建物を絞って訪問することをおすすめします。
9.レオン・ドリュヌ(Léon Delune)
レオン・ドリュヌ(Léon Delune、1862〜1947年)はベルギー人建築家。ブリュッセル王立美術アカデミーで建築や彫刻を学び、アール・ヌーヴォー様式、アール・デコ様式、折衷主義の建物などを多く設計しています。
写真は1901年に建設された「Rue des Éburons 52」にあるアール・ヌーヴォー様式の建物。玄関ドア上部や地下窓の馬蹄形アーチ、石造りのバルコニーデザインなどが見所。代表作は1904年に建設された「ドリュヌ邸(Maison Delune)」になります。
10.ジョージズ・ホープ(Georges Hobé)
ジョージズ・ホープ(Georges Hobé、1854〜1936年)はブリュッセル生まれの建築家。インテリアデザイナーとしても活躍し、アール・ヌーヴォー様式の家具等も手掛けています。代表作は1899年に建設された「クエーカー邸(Maison Quaker)※写真」。折衷主義の要素が取り入れられており、見所は自然石で補強された突き出た窓のデザインになります。
11.オクターヴ・ファン・レイセルベルヘ(Octave van Rysselberghe)
オクターヴ・ファン・レイセルベルヘ(Octave van Rysselberghe、1855〜1929年)はアントワープ近郊で生まれたベルギー人建築家。ヘントの王立美術アカデミーで学び、アール・ヌーヴォー様式、折衷主義等の建物を残しています。
代表作はポール・オトレの邸宅「オトレ邸(Hôtel Otlet)※写真)。1894〜1898年に建設され、ロレーヌ地域の石灰石が使用された豪華な造りになっています。以下の写真は1898〜1900年に建設された「ブルケール邸(Hôtel De Brouckère)」になります。
■ブルケール邸
12.アーサー・ネリッセン(Arthur Nelissen)
アーサー・ネリッセン(Arthur Nelissen、1879〜1922年)はオランダ人建築家。幼少期にブリュッセルに移住し、ブリュッセルで多くの建築物を手掛けています。
代表作は1905年に建設された「ネリッセン邸(Maison Nelissen)※写真中央」。アール・ヌーヴォー建築巡りで印象に残った建物の一つ。2階部分の巨大な円形のデザインが特徴的です。なお、ネリッセン邸の右隣の建物もアーサー・ネリッセン設計の建物になります。
13.ジュールス・ブランフォート(Jules Brunfaut)
ジュールス・ブランフォート(Jules Brunfaut、1852〜1942年)はブリュッセル生まれの建築家。代表作は1903〜1904年に建設された写真のハノン邸(Hôtel Hannon)。写真家「エドワール・ハノン(Édouard Hannon)」の邸宅で、アール・ヌーヴォー様式で建設されています。建物のデザインも見事ですが、一番の見所は彫刻家「ヴィクトール・ルソー(Victor Rousseau)」が手掛けた建物上部にあるレリーフになります。
14.ヴィクトール・テレマンス(Victor Taelemans)
ヴィクトール・テレマンス(Victor Taelemans、1864〜1920年)はベルギー人建築家。写真は1901年に建設された「Rue Philippe Le Bon 70」にあるアール・ヌーヴォー様式の建物。窓や玄関ドアの凝った造りが見所で、印象に残っている建物の一つです。なお、代表作は「Villa Elisa(Avenue Winston Churchill 8-8a)」になります。
15.フランツ・ティリー(Franz Tilley)
フランツ・ティリー(Franz Tilley、1872〜1929年)はブリュッセル生まれの建築家。ブリュッセル王立美術アカデミーで学んだ後、レオン・ドリュヌの兄弟「エルネスト・ドリュヌ(Ernest Delune)」の下で働いていました。
アール・ヌーヴォー様式、折衷主義の建物を残しており、アール・ヌーヴォー様式の代表作は写真中央のワテイン邸(Maison Watteyne)になります。鉱業局のエンジニア「ヴィクトール・ワテイン(Victor Watteyne)」の邸宅として建てられ、2006年に歴史的記念碑として認定されています。
その他のアール・ヌーヴォー建築
■アルマン・ファン・ワースベルへ、アルベール・ローセンブーム設計の建物
写真中央左、赤レンガが特徴的な建物はアルマン・ファン・ワースベルへ(Armand Van Waesberghe)設計、中央右側はオルタの下で働いていたアルベール・ローセンブーム(Albert Roosenboom)設計の建物になります。
■フクロウ邸
エドゥアール・ペルセネール(Édouard Pelseneer)が手掛けたフクロウ邸(Maison les Hiboux)。1899年に建設され、名前の通り建物上部の角のような部分2ヵ所にフクロウの彫刻があります。
■Avenue Sleeckx 44
フランソワ・ヘメルセット(François Hemelsoet)が手掛けた「Avenue Sleeckx 44」にあるアール・ヌーヴォー様式の建物になります。
■デヴァルク邸
ガスパール・デヴァルク(Gaspard Devalck)が手掛けた自身の邸宅「デヴァルク邸(Maison Devalck)」になります。人が住んでいる様子はありませんでしたが、ガラス装飾などは見事で、見ていただきたい建物の一つです。
滞在後記
ブリュッセルにはアール・ヌーヴォー建築を中心に、本当に多くの印象的な建物が軒を連ねています。街歩きを楽しんでいると、この建物すごいな、どんな人が設計したんだろう?と思う場面が多々あるくらいです。
それは東京など日本の街を歩いていてあまり感じることのないことだと思います。日本の企業は利益優先で金太郎飴のような建物ばかり造り続けていますが、もっと日本らしさ、設計者の個性を追求した建物が尊重されてほしいと願うばかりです。
建物を目的に街歩きが楽しめる都市は世界中探しても多くないと思います。ブリュッセル観光の新定番としてアール・ヌーヴォー建築巡りはおすすめです!
※上記建築家が設計した建物の場所は以下のグーグルマップにまとめています。