ポーランドの首都「ワルシャワ」にある国立美術館(Muzeum Narodowe w Warszawie)は、ポーランド最大規模の博物館の一つです。
収蔵作品の中には、ポーランド絵画の巨匠「ヤン・マテイコ」の歴史画をはじめ、ルネサンス期のイタリアを代表する画家「ボッティチェリ」や、ドイツの「クラナッハ」といったヨーロッパ美術史に名を刻む巨匠たちの傑作も並びます。ポーランド芸術の精神と西洋美術の伝統が交差するこの美術館は、観光だけでなく、深い芸術体験を求める旅行者にも見逃せないスポットです。
こちらの記事では、見どころとなる代表作品を中心に紹介します。また、チケット情報など訪問前に知っておきたい情報を詳しく解説します。ワルシャワで芸術に触れる旅の第一歩として、ぜひ参考にしてください。
ワルシャワ国立美術館とは?
ワルシャワ国立美術館(Muzeum Narodowe w Warszawie)は、1862年に創設されたポーランドを代表する美術館の一つ。現在の建物は1938年に完成したもの。
ポーランド美術を中心に、古代から現代まで幅広い時代の芸術作品を所蔵し、その収蔵点数は80万点超にも及びます。絵画、彫刻、グラフィック、装飾美術、写真など多岐にわたり、特にポーランドの歴史と密接に結びついた作品群が特徴です。第二次世界大戦中には多くの作品が略奪や破壊の被害を受けましたが、その後の復興と再収集により、現在では国内外の名品を一堂に鑑賞できる場となっています。
芸術を通じてポーランドの文化遺産を保存・紹介することを使命とし、研究機関としての役割も果たす同館は、観光客のみならず、地元の人々や研究者からも高く評価されています。ここからは見所として、「ポーランド美術の巨匠「ヤン・マテイコ」」、「その他ポーランド人画家(5名)の必見作品」、「西洋美術の名画たち(10名)」のカテゴリーに分けて紹介していきます。
ポーランド美術の巨匠「ヤン・マテイコ」
ヤン・マテイコ(Jan Matejko、1838〜1893)は、ポーランドを代表する歴史画家。祖国の歴史や英雄を壮大なスケールで描いた作品で知られています。代表作に「グルンヴァルトの戦い」、「プロイセンのオマージュ」、「プスコフ包囲戦でのステファン・バートリ」などがあり、ワルシャワ国立美術館では「グルンヴァルトの戦い」を見ることができます。それではこれからヤン・マテイコの作品を見ていきましょう。
※「プロイセンのオマージュ」はクラクフ国立美術館が、「プスコフ包囲戦でのステファン・バートリ」はワルシャワ王宮が所蔵しています。
■グルンヴァルトの戦い(Bitwa pod Grunwaldem)
「グルンヴァルトの戦い」は1872〜1878年にかけて描かれた作品で、1410年にポーランド・リトアニア連合軍がドイツ騎士団を破った戦いを描いた大作です。縦約4.2m、横約10mの巨大なキャンバスに、戦場の混乱と英雄たちの姿が緻密かつ迫力ある筆致で表現されています。
■「自画像」、「スタンチク(Stańczyk)」
- 自画像
- スタンチク(Stańczyk)
■「ヘンリク・クラジェフスキの肖像」、「リヴィウ近郊におけるトゥハイ・ベイと共にいるボフダン・フメリニツキー」
- Portret Henryka Krajewskiego
- Bohdam Chmielnicki z Tuhaj-bejem pod Lwowem
その他ポーランド人画家(5名)の必見作品
1. アレクサンデル・ギェリムスキ(Aleksander Gierymski)
アレクサンデル・ギェリムスキ(Aleksander Gierymski、1850〜1901年)は、ポーランドの印象派的写実主義を代表する画家。都市の貧困層や日常の風景を題材に、繊細な光の表現と精密な筆致で知られています。ポーランド近代絵画史の欠かせない存在です。
■「東屋にて」、「オレンジを持つユダヤ人女性」
- 東屋にて(W altanie)
- オレンジを持つユダヤ人女性(Żydówka z pomarańczami)
2. アンナ・ビリンスカ(Anna Bilińska)
アンナ・ビリンスカ(Anna Bilińska、1854〜1893年)は、19世紀後半に活躍したポーランドの女性画家。女性が画家として成功することが稀だった時代に国際的な評価を獲得。繊細な表情描写と静かな気品を湛えた画風が特徴です。
■バラを持つ若い女性の肖像(Portret mlodej kobiety z roza)
3. ヘンリク・ロダコフスキ(Henryk Rodakowski)
ヘンリク・ロダコフスキ(Henryk Rodakowski、1823〜1894年)は、19世紀ポーランドを代表する肖像画家。繊細かつ心理的深みのある人物描写で高く評価され、フランスやポーランド貴族の肖像を多数描いています。
■ココシャ戦争(Wojna kokosza)
4. ヘンリク・シェミラツキ(Henryk Siemiradzki)
ヘンリク・シェミラツキ(Henryk Siemiradzki、1843〜1902年)は、19世紀ポーランドを代表するアカデミック絵画の巨匠。古代ローマや聖書を題材にした壮大な歴史画で知られています。ローマを拠点に活動し、繊細な描写と劇的な構図、光の表現に優れた作風で評価を得ました。
■「キリスト教徒のディルケ」、「クラクフ劇場の緞帳」
- キリスト教徒のディルケ(Dirce chrzescijanska)
- クラクフ劇場の緞帳(Kurtyna teatru krakowskiego)
5. ヴワディスワフ・チャホルスキ(Władysław Czachórski)
ヴワディスワフ・チャホルスキ(Władysław Czachórski、1850〜1911年)は、19世紀末のポーランドを代表するアカデミック画家。ドレスデンやミュンヘンで学び、ドイツを拠点に活躍しました。優美で繊細な女性像や歴史的主題の絵画で知られています。
■物思いにふける女性(Zadumana)
西洋美術の名画たち(10名の作品)
1. サンドロ・ボッティチェッリ(Sandro Botticelli)
サンドロ・ボッティチェリ(1445〜1510年)は、イタリア・ルネサンス期の画家。美しい線描と優雅な人物表現が特徴。代表作に「ヴィーナスの誕生」など。
■洗礼者聖ヨハネと天使をともなう聖母子(The Virgin and Child with Saint John the Baptist and Angel)
2. ルーカス・クラナッハ(Lucas Cranach the Elder ※父)
ルーカス・クラナッハ(1472〜1553年)は、ルネサンス期のドイツ画家。ザクセン選帝侯フリードリヒ3世(賢明公)の御用絵師。宗教画や肖像画を多く手掛けています。
■アダムとイヴ(Adam and Eve)
■1514年9月8日のオルシャの戦い(The Battle of Orsha on 8 September 1514)
3. ルーカス・クラナッハ(Lucas Cranach the Younger ※子)
ルーカス・クラナッハ(子)(1515〜1586年)は、父ルーカス・クラナッハの後を継いだドイツ・ルネサンス期の画家。宗教画や肖像画を制作し、父の作風を受け継ぎながらも独自の表現を発展させました。
■赤ひげの男の肖像(Portrait of a Red-Bearded Man)
4. ヤン・ブリューゲル(Jan Brueghel the Elder ※父)
ヤン・ブリューゲル(父)(1568〜1625年)は、フランドルのバロック画家。細密な風景画や花の静物画で知られる。父ピーテル・ブリューゲルの影響を受けて、多彩な題材を描いています。
■戦利品を分け合う盗賊たちの風景(Landscape with Robbers Sharing Loot)
5. レンブラント・ファン・レイン(Rembrandt van Rijn)
レンブラント・ファン・レイン(1606〜1669年)は、オランダ黄金時代を代表する画家。光と影の巧みな表現と深い心理描写で知られる肖像画・宗教画の巨匠です。
■マールテン・スールマンスの肖像(Portrait of Maerten Soolmans)
6. フェルディナント・ボル(Ferdinand Bol)
フェルディナント・ボル(1616〜1680年)は、オランダ黄金時代の画家で、レンブラントの弟子。肖像画や歴史画を中心に制作し、繊細な光と色彩表現が特徴です。
■老婦人の肖像(Portrait of an Old Woman)
7. アンソニー・ヴァン・ダイク(Anthony van Dyck)
アンソニー・ヴァン・ダイク(1599〜1641年)は、フランドル出身のバロック画家。イギリス王室の宮廷画家として活躍し、優雅で洗練された肖像画などで知られています。
■聖ヒュベルトゥスの首像(The Head of Saint Hubertus)
8. ヤーコブ・ヨルダーンス(Jacob Jordaens)
ヤーコブ・ヨルダーンス(1593〜1678年)は、フランドルのバロック期の画家。力強い色彩と民衆描写が特徴。「羊飼いの礼拝」などの宗教画を描いたことで知られています。
■聖ヨハネの家族とともにいる聖家族(The Holy Family with the Family of Saint John the Baptist)
9. アブラハム・ミグノン(Abraham Mignon)
アブラハム・ミニョン(1640〜1679年)は、ドイツ出身のオランダ黄金時代の静物画家。フランクフルトで生まれ、ユトレヒトでヤン・ダーフィッツゾーン・デ・ヘームに師事しました。特に花や果物、昆虫、小動物などを精密かつ象徴的に描いた作品で知られます。
■花と小動物によるヴァニタス(Vanitas with Flowers and Small Animals)
10. ジャン=バティスト・グルーズ(Jean-Baptiste Greuze)
ジャン=バティスト・グルーズ(1725〜1805年)は、フランス人画家で、道徳的な家庭生活をテーマにした風俗画や感情豊かな肖像画で人気を博しました。代表作にルーブル美術館が所蔵している「壊れた甕」などがあります。
■ギタープレイヤー(Guitar Player)
ワルシャワ国立美術館の概要
開館時間:10:00〜18:00(金曜は20:00まで)※月曜は定休日
料金:30PLN(火曜日は常設展示への入場が無料)
住所:Al. Jerozolimskie 3, 00-495 Warszawa
アクセス:トラム「Muzeum Narodowe 06」駅から徒歩3分
公式サイト:https://www.mnw.art.pl/en/
※入って右側に無料のクロークあり。トイレの入口は分かりづらいので注意。
■所在地
最後に
ワルシャワ国立美術館は、ポーランド美術の宝庫であると同時に、ヨーロッパや世界の名画を身近に鑑賞できる必見の場所です。ヤン・マテイコなどポーランドの巨匠から、ボッティチェリやクラナッハ、レンブラントといった西洋美術の巨匠まで、幅広い作品群が一堂に会しており、芸術史の流れを肌で感じられます。
ポーランドの文化や歴史に興味がある方はもちろん、美術やデザインに関心のある旅行者にもおすすめのスポットです。ワルシャワを訪れるなら、ぜひ足を運びたい必見の美術館です。
なお、筆者が訪れた際、日本人の中年女性が手やハンカチなどで口を覆うことなく、くしゃみをしていました。くしゃみの際に唾や痰が絵画の方に飛ぶ可能性があるため、くしゃみをする時は手や布で口を覆うなどして、最低限のマナーを守るようにしてください。